ある日の思い出

ある日の、家裁からの帰り路。自転車でゆっくり走っていると、見るからに老犬のシーズーが歩道をヨロヨロ、トコトコと歩いているのが目にとまりました。

 

私はびっくりして自転車を降り、ワンコを支えました。あるお店の店先でしたが、万が一車道に出てしまって車に轢かれてはたいへんです。どこかの家で飼われていたようでしたが、首輪はついていません。外れてしまったのでしょうか。

 

こんなときどうすれば良いかなんて、なかなか思いつきません。仕方なくその場から110番通報をして事情を説明し、近くの交番から警察官に来て貰うことにしました。

 

すると、じっとしていたのは2分程度でしょうか、ワンコが突然その場で息み始め、みるみるうちに、たいそう立派な落とし物をひねり出したではありませんか!

ほぼ同時に、店の奥から店主が出てきて私に非難めいた視線を向けます。必死で事情を説明し誤解は解けましたが、今度は「なんて物好きな人なんだ」と言わんばかりの表情です。

運良く持っていたポケットティッシュを手にそれをつまみ上げ、コンビニ袋に収めます。その場を離れるわけにもいかず私が途方に暮れる中、当のワンコは澄ましたもの。飼い主から離れてしまい心細いのではないか、というのは人間の勝手な思い込みなのかもしれません。

 

私はこのワンコの潔さに、ある種の感動を覚えました。「人間社会の常識なんて関係ないんだ、今、おれは生きているぞ」という考えを、老犬から教わったような気がしましました。

 

結局15分程度待ったでしょうか、お隣に住むご高齢の女性が買い物から帰宅され、あらまあウチの犬だわ、ということで一件落着。もう一度110番に電話して(通報から20分以上臨場しなかったことになりますが・・・)解決した旨伝え、女性にワンコを引き渡し、ついでの落とし物もお渡しできました。

 

・・・とまあ、なんともオチのないお話しなのですが、家裁から自転車で、それも時間に余裕があってゆっくり帰るときには、断片をときどき思い出します。「落とし物は自転車のハンドルにくくりつけたな」とか、老犬独特の匂いとか、店主の冷たい視線などもですが、ワンコの達観した表情が何とも言えません。うちのワンコも外で迷子になったとして、あんな表情をするのかしら。

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